税理士業界の価格競争について考える

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「税務顧問1万円から!」
インターネットで税理士事務所を探そうとすると、そのような広告が次から次へと現われます。中には、1万円を大きく下回るような広告まで現われています。例えば、決算申告の請負であれば3万円とか5万円といった価格帯での「決算単独業務報酬」の価格競争が繰り広げられています。

この競争は15年以上前から、断続的に行われてきました

なぜそのような事がわかるかというと、私自身、東京都内の税理士法人で、低価格戦略の営業展開を現場最前線で行ってきた経験があるからです。私は税理士法が改正になった直後に、顧問先拡大の専担者として活動し、3年間で300社の顧問先拡大を目の当たりにしてきたという経験を持っています。当時のことを思い出してみると、顧問料19,800円くらいでもかなり安い料金でした。法人なら月額5万円、新設法人であれば月額3万円がスタンダードな顧問報酬であった時代です。その頃、月額5万円が平均的な価格帯であった税務顧問を、19,800円で提供しようとするのですから、お客様は殺到しました。

低価格戦略には3つのカラクリがあります

1つ目のカラクリ
低価格で顧問を受けても利益を出せるような形で仕事を受けることです。例えば、毎月の定期訪問ではなく、3ヶ月に1回や半年に1回、1年に1回の訪問とする、あるいは来所型とすることで、会計事務所にかかる負担を軽くしてそれを報酬に反映することで低価格を実現します。年商区分によって報酬の金額を変動させる形もそのひとつです。

2つ目のカラクリ
最低限度の価格を安く設定し、その他のサービスはオプションとして細かく報酬設定を行う事です。「顧問料」とは別に、年末調整や税務調査の立会い、給与計算、記帳代行にかかる費用も全て別報酬とするのです。結局、諸々の仕事を会計事務所に頼もうとしたら、最終的に月額5万円くらいになる、といった価格設定を行うことです。

3つ目のカラクリ
「しっかりと頼みたい」という層をカバーできるような高付加価値のサービスラインナップを同時に用意することです。

このように、私は低価格戦略の売り出し方のカラクリを良く知っています。しかし、当社でサポートをさせていただいている税理士事務所様に対しては低価格戦略を積極的には勧めていません。それは、低価格競争は事務所を疲弊させる取り組みであることも私は同時に良く知っているからです。

低価格戦略には3つの弱点があると私は考えています

1つ目の弱点
低価格にひかれて契約になる会社は、他にもっと安いサービスがあったら、直ぐに乗り換えてしまう気質を持っているということ。一生お付き合いできるお客様になり難いという傾向が強いということ。

2つ目の弱点
従業員の回転が速くなるということ。低価格であるという事は多くの件数を担当しなければなりません。多くの件数を担当するという事は、1件あたりのお客様にかけることが出来る時間も少なくなります。1件の顧客に多くの時間が避けないので、満足度を高くすることは難しくなります。結果的に顧客満足度は一定以上に上がる事がありません。お客様の事を深く知る事が出来ず、寄り添う事ができないのです。それが、職員の離職につながるケースがあります。

3つ目の弱点
「安いサービスを提供する事務所である」というイメージが付いてしまう事です。これはなかなか厄介な問題となって、じわりじわりと事務所を苦しめる事になります。

安いから頼む方にも2種類あります。安いので、「ここまでのサービスを期待する」という線引きがしっかりと出来ている方。つまり、常識的な方です。もうひとつは、金額に関係なく、仕事として受けている以上、最高品質のものを最大限の努力で提供すべきであると考える、ビジネスとして考えると少々非常識な方です。

前者のケースであれば良いのですが、得てして低価格に惹かれる方は後者のような思考を持っているということが少なくありません。顧客層のベースがそのような気質を持った方に偏ってしまうと、現場はもう大変です。

考えてみましょう!

さらに、安さで満足をしている方が、自分の知り合いに税理士事務所を紹介するときどのように言うかを考えてみましょう。それは、「安い税理士事務所知っているよ。紹介しようか?」です。当然、安さを求めるお客様が連鎖します。最悪なのは、「安い税理士事務所知っているよ。安くて、頼めば何でも顧問料の範囲でやってくれるよ」と紹介されてしまうことです。もちろん、100%そういう方ばかりではありませんが、私が今までに見てきた「価格競争に突き進んだ事務所」は、そのような結果になっていることがほとんどです。そして、低価格戦略に取り組んだ事務所は、数年後に静かにそのサービスから撤退し、高付加価値路線に切り替えます。

このようなことを実体験の中から目の当たりにしてきた私は、お手伝いをさせていただく税理士事務所様には、行き過ぎた税務顧問契約の低価格戦略はしないようにお話をしているのです。
susumebana2020